辺境に住まう魔術師の館。部屋の奥では怪しげな液体が鍋にかけられ異臭を放っている。
 そこで一人の男が館の主を待っていた。巨竜ヒイロである。
金属製の鎧で身を固め、唯一の装身具たる宝玉を手で弄んでいる。
 そこへ魔術師クライアが入ってきた。
使い込まれた紫のローブ姿で、樫の木でできた杖をついている。
 魔術師クライアはヒイロの労をねぎらうとさっそく要件を切り出した。
「巨竜ヒイロよ。来てもらったはほかでもない。三日前、勇者エネミーの手の者が密かに忍び込み、娘を連れ去ってしまった。そなたには我が娘を連れ戻して欲しいのだ。」
「魔術師クライアの頼みとあらば、お引き受けいたしましょう。」
 二人の旧友は固い握手を交わした。
 ヒイロは旅支度を整えると、住み慣れた故郷から旅立った。

 ヒイロは東へ向かった。名高い巨竜アシスタに助力を乞うためだ。 翌日の昼過ぎ、ヒイロはアシスタの住処へとたどり着いた。
 深い森の中にある岩山の、それまた深い洞窟の中。聞こえる音は鳥の声と木の葉のざわめきだけだ。
 ヒイロが待つ前に、巨竜アシスタが現れた。
見るもの全てを威圧する巨体を横たえ、唯一の装身具たる宝玉を手で弄んでいる。
 「一体何の用だ。私は忙しい。」
 「あっちゃん。俺のことを忘れたのかい。」
 「ひいちゃん。ひいちゃんなのか。」 二人の旧友は十年ぶりに酒を酌み交わした。
 ヒイロは巨竜アシスタという強力な味方を得て、旅立った。

 勇者を倒すには今の魔力では心もとない。無限の魔力を与えてくれるという赤の宝玉が必要だ。 ヒイロは赤の宝玉を持つ古竜が住む太古の森の奥へ目指して飛び立った。
 太古の森の奥の洞窟のそのまた奥。照らしだすのは地上から差し込む僅かな光だけだ。
 ヒイロの呼びかけに、目を閉じていた古竜がのっそりと起き上がった。
「赤の宝玉は我が命にも等しきもの。いかな巨竜の頼みとて渡すわけにはいかぬ。」
「これとの交換ではいかがか。」ヒイロは手に持った黄色の宝玉を差し出した。
 黄色の宝玉。無限のカレーを与えてくれる伝説の宝玉である。古竜はいそいそと交換に応じた。
 ヒイロは早速赤の宝玉で魔力を補給すると、太古の森を後にした。

 ヒイロとアシスタは敵の本拠地を望む高台へとたどり着いた。
 数時間後には敵との決戦が迫っている。気を引き締めた二人の前にエネミーの部下が立ちはだかった。
ぼろぼろの麻の服を着て、その身から湧き出す瘴気で、シルエットが揺らめいている。
 「我こそは勇者エネミー第一の部下、プレーネ。貴様らを通す訳にはいかん。」
 プレーネが指を弾くと、百人の敵が一斉に襲いかかってきた。
 二人は奮戦したが、倒しても倒しても新たな敵が押し寄せてくる。
 「このままでは埒が明かん。ここは俺に任せてお前は先に行け! 」
 アシスタが叫ぶ。二人は視線を交わすと頷きあった。
 「死ぬんじゃないぞ。」
 ヒイロは単身囲みを突破すると、敵の本拠地へ、弾丸のように駆けた。

 巨竜ヒイロは、ついに勇者エネミーの本拠地へとたどり着いた。
 王都郊外にある勇者の館。簡素な室内には何本もの剣が架かっている。
 ヒイロはエネミーの部下を蹴散らしながら、奥へ奥へと突き進んだ。
 ついに勇者エネミーが現れた。ドレスで見事に女装し、身の丈ほどもある大剣を背負っている。
「巨竜ヒイロよ。良くぞここまでたどり着いた。だが、ここがお前の墓場だ。」
 勇者エネミーは剣を抜くと、いきなり斬りかかってきた。
 巨竜ヒイロは翼の一閃でエネミーの攻撃を跳ね返した。
 戦いは互角。だが、長期戦になれば、補給有利なエネミーに分がある。
 ヒイロは赤の宝玉の全魔力を使って直径10メートルにも及ぶ火球を生み出すと、エネミーに浴びせた。
――かに見えた。
「遅いわ。」
 ヒイロの体に伝説の剣が突き刺さっている。エネミーがヒイロより一瞬早く、隠し持っていた伝説の剣を振るったのだ。
 巨竜ヒイロは倒れた。

 その後、クライアの娘はしぶしぶエネミーと結婚し、それなりに幸せに暮らしたということだ。

あっちゃん、ひいちゃんww