辺境に住まう魔術師の館。部屋の奥では怪しげな液体が鍋にかけられ異臭を放っている。
そこで一人の男が館の主を待っていた。盗賊ヒイロである。
腰みの姿で、緑のスカーフで顔を隠している。
そこへ魔術師クライアが入ってきた。
ドレスで見事に女装し、樫の木でできた杖をついている。
魔術師クライアはヒイロの労をねぎらうとさっそく要件を切り出した。
「盗賊ヒイロよ。来てもらったはほかでもない。隣国の魔王エネミーが我が国を侵略しようと企んでいる。そなたにはエネミーの野望を打ち砕いて欲しいのだ。」
「魔術師クライアの頼みとあらば、お引き受けいたしましょう。」
「ただし礼金ははずんでもらえるんでしょうな。」 ヒイロは成功報酬の約束に加え、前金をせしめると、ほくほく顔で退出した。
ヒイロは旅支度を整えると、住み慣れた故郷から旅立った。

ヒイロは東へ向かった。名高い巨竜アシスタに助力を乞うためだ。 翌日の昼過ぎ、ヒイロはアシスタの住処へとたどり着いた。
深い森の中にある岩山の、それまた深い洞窟の中。聞こえる音は鳥の声と木の葉のざわめきだけだ。
ヒイロが待つ前に、巨竜アシスタが現れた。
一糸まとわぬ全裸で、唯一の装身具たる宝玉を手で弄んでいる。
「一体何の用だ。私は忙しい。」
ヒイロは魔王エネミーを倒すべき理由を熱弁した。アシスタが逃げようとしても後についてまわって説き続ける。
三日三晩の説得で、ついにアシスタが音を上げた。
ヒイロは巨竜アシスタという強力な味方を得て、旅立った。

まずは魔王を倒すための武器を揃えねばならない。 ヒイロはこの都市最大の武器屋に向かった。
カウンターの向こうの棚には何百もの武器が並び、店内は大勢の客でごった返していた。
揉み手をしながら現れた店主に投げナイフ三十本を頼むと、市価の三倍の値を告げられた。
「盗賊に売ったと分かれば、お咎めを受けますからね。迷惑料と思って頂ければ。」
ヒイロは店を立ち去った。
夜半過ぎ。ヒイロは再び店に戻ってきた。
店に忍び込むと、店中の投げナイフを袋に詰め込んで、逃げ出した。

ヒイロとアシスタは敵の本拠地を望む高台へとたどり着いた。
数時間後には敵との決戦が迫っている。気を引き締めた二人の前にエネミーの部下が立ちはだかった。
使い込まれた紫のローブ姿で、頭には王冠が輝いている。
「我こそは魔王エネミー第一の部下、プレーネ。貴様らを通す訳にはいかん。」
プレーネが指を弾くと、百人の敵が一斉に襲いかかってきた。
二人は奮戦したが、倒しても倒しても新たな敵が押し寄せてくる。
「このままでは埒が明かん。ここは俺に任せてお前は先に行け! 」
アシスタが叫ぶ。二人は視線を交わすと頷きあった。
「死ぬんじゃないぞ。」
ヒイロは単身囲みを突破すると、敵の本拠地へ、弾丸のように駆けた。

盗賊ヒイロは、ついに魔王エネミーの本拠地へとたどり着いた。
無限に広がる魔界。その中心にそびえる魔王城の玉座の前。髑髏の蝋燭立てが仄かな光を放っている。
ヒイロはエネミーの部下を蹴散らしながら、奥へ奥へと突き進んだ。
ついに魔王エネミーが現れた。素肌に革の上着を羽織り、その身から湧き出す瘴気で、シルエットが揺らめいている。
「盗賊ヒイロよ。良くぞここまでたどり着いた。だが、ここがお前の墓場だ。」
魔王エネミーが腕を振ると、地面から次々と闇の眷属が現れ、ヒイロに襲いかかる。
盗賊ヒイロは身軽に飛び退いて攻撃をかわした。
戦いは互角。だが、長期戦になれば、補給有利なエネミーに分がある。
ヒイロは秘技、投げナイフ三十連撃でエネミーを確実な死へと誘った。
――かに見えた。
「遅いわ。」
ヒイロの体に闇の剣が突き刺さっている。エネミーの闇の剣が、死角からヒイロの体を貫いたのだ。
盗賊ヒイロは倒れた。

その後エネミーは瞬く間に辺り一帯の国々を平定し、皇帝に即位したということだ。

銭ゲバヒイロ