俺TUEEE系小説に馴染めない方に―『灰と幻想のグリムガル』第1巻 感想
「十文字氏の作品を積極的に推していきたい」と書いたからには、長めの紹介文が必要と思い、ネタバレのない程度に感想を書いてみます。
今回は最近多くなっている俺TUEEE系小説の正反対を行く「灰と幻想のグリムガル」を取り上げます。
世界観
RPGゲームをしてたら誰もが体験する序盤の小物狩りを、コツコツと表現を積み重ねることで、ここまで立派なエンターテインメントに仕立てている作品はなかなかお目にかかれません。
主人公のハルヒロが異世界に飛ばされて、まずやらないといけないことは「食べる」ことと「寝る場所」、あと「お風呂」
地味ですが確かにその通りです(^_^;)
生きていく上で必要なお金をコツコツ稼いでその日を生き抜く。そういう地味な部分の逃げ道を作らず、丁寧に書き込んでいく作業は、実は作者にとって好きなことなのかもしれません。
レンジのパーティーのように「あっという間に町でも指折りの強さになっていた」なんて、序盤の積み上げを端折ってしまう道もあるでしょう。すぐに壮大なスケールの話につながりそうですが、そういう道は取っていません。これが「グリムガル」の最大の特徴です。
人物像
パーティー間の他愛のない会話場面が多いですが、現実に集団行動してたら自分の頭の中で考えたりするより、とにかく相手と話すことに時間を取られる方が自然です。
しかも、その会話の中でそれぞれの口調に「色」をつけることで、キャラの個性が際立っています。
ランタのウザくなるような会話も、それに対する各キャラの態度を書き分けることで、より個性が強調される効果を生んでいます。憎まれ役ですが、彼が場面に入ってこないと話に躍動感が出ません(躍動感のあるキャラが他にいないこともありますが…)。
登場人物を見ていると、超人と呼べる人は数少なく、特に主人公のまわりには「普段よく見かける」「友達でもこういう人がいる」といった、等身大の人間が多いです。読者にとっては感情移入しやすいでしょう。
知り合いの顔を思い浮かべてしまう人もいるんじゃないでしょうか?
戦闘
残りものパーティーとして出発をしたハルヒロ達に突然訪れる仲間の死。少しでも間違うと、どのキャラにも死が訪れるという緊張感があります。
ゲームでは雑魚扱いの敵でも「モンスター」なので、生身の人間が気を抜くと一瞬で死にます。望まぬ冒険に狩り出され、死と隣り合わせの中で殺し合う。一種の虚無感のような感情が沸いてきそうな状況で、ハルヒロ達は必死に生き抜こうとします。
敵を剣で「スパッ」とぶった切るなんて普通の人がいきなりできるわけがありません。刺し損ね、モンスターも死ぬまいと必死で抵抗する。互いが血まみれ、泥まみれになりながら殺し合う、終わったあとは精も根も尽き果てる、リアルな戦闘がそこにはあります。
泥臭く血生臭い戦闘シーンは、地味なことをコツコツと積み重ねる世界観と通底しています。
成長
パーティーに残された者は全員頼りなく、キッカワのような口の巧さで要領良く世渡りしていく器用さもないため、同じく頼りないハルヒロにリーダー役が回ってきます。
パーティーのメンバーは全員不器用な面を持っています。その中でも各人が強くなり、まわりの役に立とうと努力します。
不器用なだけに一足飛びには強くなれず、最底辺のパーティーとして地味な活動を続けますが、その中でも少しの成長を見つけ、小さな喜びを味わいます。
小さな喜びと大きな悲しみが混ざり合う世界。収支でいえばマイナスの方がまだはるかに大きい。これから成長を重ねることでプラスに転じることができるか?
「グリムガル」を紹介したらこれも書いておかないといけませんね。
「小説家になろう」にて十文字氏が投稿している、グリムガルと同じ世界のもう一つの物語
大英雄が無職で何が悪い
また時間ができたら第2巻の感想を書きます。
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